社長ブログ

薩摩錫器と種子鋏(1)

こんにちは、シナプス代表の竹内です。
7月15日に、座談会「シナプスのコーポレートサイトができるまで」を公開しました。
楽しいけどまとまりのない雑談をうまくまとめていただき、Flow/鶴田さんの編集能力の高さに、もう感謝しかありません。

さてその座談会の中でラッキーブラザーズ/田島さんより、サイト制作の打ち合わせで話した「種子鋏」について、触れてもらっています。ちょっとその話の補足です。薩摩錫器と真空断熱タンブラー、種子鋏と100均ハサミにまつわる話です。

個人的に「金属」が好きです。学生のときに金属の表面を観察するという授業があり、一見なんの面白味もない金属の表面を顕微鏡で観察すると、幾何学的でキラキラ光って「こんなにきれいなものか!」と、驚きの発見をしてから好きになりました。

鹿児島には、特産と言える伝統工芸品がたくさんありますが、金属工芸品として思いつくのは薩摩錫器と種子鋏です。それぞれ今も、職人さんによる一品一品の手作りです。にも関わらず手が届かないほど高価でもなく、薩摩錫器も種子鋏も、5千円前後から購入できます。手作りでこの価格、採算は大丈夫なのか?とも思いますが、私の知る限り、薩摩錫器の工房は2件、種子鋏も3件のみと、危機的に少ない状況です。

まずは薩摩錫器
薩摩錫器は3つ持っています。1つは常用、残り2つはたまに使い、あとは時たま眺めています。

薩摩錫器 酒器
薩摩錫器の酒器です。大辻朝日堂謹製。

3つとも鹿児島中央駅西口側にあった大辻朝日堂さんで買いましたが、ちょくちょく工房を見学させてもらいました。しかし残念ながら、職人だった社長はリウマチで制作ができなくなり、またもう一人の最後の職人さんの引退もあって、既に店じまいしてしまっています。
見学では、鹿児島出身にも関わらず「酒ならビールだ」と言い切る職人さんの作業をずっと眺めていました。薩摩錫器は、まず錫のインゴットを溶かして木型に流し込み、大まかな形を作ります。木型を外して、旋盤で削り出して成形します。大辻朝日堂さんの旋盤は空襲の戦火を逃れて受け継がれたという古いものでしたが、この旋盤でないと、ぐっと力を込めたときに中心軸にぶれが生じるとのこと。これが壊れたら、もう薩摩錫器も終わりとも言っていた、貴重品でした。そのあと表面の仕上げに入りますが、濃い硝酸に薩摩錫器を漬け込みます。見学で立ち会ったときに、職人さんに「硝酸でむせるよ。」と言われましたが、学生時代の経験もあったので「はいはい。」と軽く聞いていました。しかし現場に入ってちょっと息を吸っただけで、もう咳が止まりませんでした。でも硝酸から上がってきた、鈍い光沢を見せる薩摩錫器の素朴で温かみを感じる金属面には、とても惹かれるものがありました。

薩摩錫器
薩摩錫器 硝酸で磨かれた金属面

薩摩錫器と真空断熱タンブラー
ここまで手の込んだ薩摩錫器で飲む焼酎のロックは最高です。熱伝導度の高い金属である錫によって、くちびるにダイレクトに伝えられるロックのひんやり感が、美味しさを引き立てている…気がします。もちろん薩摩錫器で飲むビールも美味しいです。薩摩錫器の内側のちょっとした凹凸で、ビールの泡が美味しくきめ細やかになっている…気がします。こればかりは、もう主観です。
しかし。真空断熱タンブラーで飲む焼酎ロックやビールもまんざらじゃないです。というか、日常的には真空断熱タンブラーを使うほうが多いです。やっぱり温度がずっと保たれるのはありがたいです。そして真空断熱タンブラーの価格は1千円台でとても頑丈。薩摩錫器は安くても5千円前後、しかも扱いに気をつけないと、傷がついたり変形したりします。真空断熱タンブラーはとっても手軽です。普段使いの合理性で考えれば、真空断熱タンブラーの圧勝じゃないでしょうか。でも薩摩錫器は好きなんですよ。

(つづく)