スタッフブログ

発酵の愉しみ

皆さんこんにちは。システム開発課の丸野です。
特に自慢にもならないことではありますが、10年前に大学進学のために一人暮らしを始めてから、基本的に毎日自炊をしています。
男性の方で、よく自炊される方は心当たりあるかもしれませんが、この自炊というのは厄介なもので、大抵の自炊男子がハマってしまいがちな”沼”があります。
例えば以下です
  1. 本気の炒飯  : 中華鍋を買ったり、自家製の鶏油を仕込む
  2. インドカレー : よくわからないスパイスを買い漁る
  3. 鉄フライパン : 何を作るにも、やたら分厚くて重い鉄フライパンを使う
  4. 包丁 : 刺身を綺麗に造るために包丁を集めたり、中華包丁で全てを済ませるべく練習したりする
  5. 燻製 : 火災報知器に警戒しながら、換気扇ブン回してジャーキーを作る
  6. 低温調理 : 「食中毒」と「しっとり柔らか」のギリギリを攻める
みたいなところでしょうか。
ちなみに上記は全て私もハマったことなのですが、
今回は自炊される方に向けて、更なる沼、「漬物作り」について書いていきたいと思います。

漬物を作ってみよう

さて、日本でポピュラーな漬物といえば、
梅干し、沢庵、高菜漬け、糠漬け等がありますね。
これらはとっても美味しいものですが、自分で作ろうとすると、案外手間も時間もかかるものです。
そこでこの時期に簡単に作れて美味しい漬物として、「サワーピクルス」をご紹介させていただきます。
普通、ピクルスといえば野菜を酢漬けにしたものを想像されるかと思いますが、
サワーピクルスは野菜を約5%の塩水に漬けて乳酸発酵させたものです。
以下は簡単なレシピ紹介です。
1. きゅうりなどの漬物にしたい野菜を準備する
2. ガラス瓶などの容器を準備する
3. 調理の過程で使用する器具をよく洗浄し、可能であれば煮沸消毒まで行う
4. 5%の塩水を作り、沸騰させる
    – この時、粗塩などの塩化ナトリウム以外のミネラルも豊富に含まれる塩を使うことをおすすめします
5. ガラス瓶などに、できるだけたくさん、押し込むように野菜を詰めてください
    – この時にお好みのスパイスを入れても美味しいです。
    – きゅうりを漬ける場合、きゅうり自身の酵素により溶けてしまうので、両端は必ず切り落としてください。また、茶葉をほんの少しだけ入れておくと、タンニンの作用によって歯応えが保たれます。
6. 沸騰させた塩水の粗熱が取れたら、野菜が完全に漬かるように塩水を入れてください。野菜が水面から出てしまうと、そこからカビが生えたり、腐敗することがあるので、注意してください
7. ガスが発生することがあるので、虫が入らない程度に軽く蓋を開けて、常温で2~3日放置してください
8. 漬けた野菜から緑色が抜けていき、酸味が出始めたら完成です。常温で長く放置するほど酸味が増すので、好みの味になったら冷蔵保存してください
補足: つけ汁も健康に良いらしいので、調味料として利用するのをおすすめします。
また、次回同じようにサワーピクルスを作る際に、前に漬けた汁を加えると発酵しやすくなります
簡単にいえば、糠漬けを糠の代わりに塩水を使って乳酸発酵させるようなイメージです。
塩水を使って瓶の中で発酵させるので、糠漬けよりもずっと管理が楽で、ちゃんと発酵しているかどうかを視覚的に判断しやすいのでおすすめです。

瓶を眺めて思うこと

個人的な感想ですが、日々様子が変わっていく瓶を眺めるのはなかなかに趣深いものがあって、
休みの日なんかにサワーピクルスを仕込んで、これを眺めていると、いつも宮沢賢治の「春と修羅」の序文を思い出します。
わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電灯の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の集合体)
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電灯の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電灯は失はれ)
瓶の中では、色々な菌がそれぞれの生存本能のもとに生きていて、私がそれを食べると、腸内フローラを初めとして、確かに私という存在に何かしらかの影響を与えることになります。
そういう事実を踏まえると、私という存在が、無数の高度に分化した細胞や、意思があるのかどうか分からない共生菌によって成り立っている、まさに”透明”な存在の複合体で、それらが絶えず生まれ死んでゆきながら、わたしという現象を灯らせている、なんてことを考えてしまいます。
さて、センチメンタリズムに浸るかどうかは置いておいて、発酵食品を自分で作ってみることはとても楽しく、また健康面にもメリットがあると思いますので、簡単にご紹介させていただきました。

発酵のリスクと情報の判断について

ここで記事を終えても良いのですが、発酵食品を自作することには一定のリスクが伴うので、少しだけ注意点を述べさせていただきます。
  • 発酵と腐敗は紙一重なので、異臭がする、カビのようなものが浮いているなど、何かおかしいと思うことがあったら、躊躇なく密閉して廃棄してください
  • ご自身でレシピを調べられる場合、伝統的・科学的な裏付けのある、可能な限り安全なレシピであることを確認してください
  • 世の中いろんな情報が溢れていますので、以下に信憑性を判断するための簡単な指標を挙げます
    • 塩を使わずに乳酸発酵させる事は非常に難しいので基本的に避けた方がいいです。
    • スーパーで買ってきた牛乳を常温で放置してもヨーグルトにならないように、米の研ぎ汁などをそのまま放置しても、健康によいものができるとは限りません
    • 加熱によって殺菌そのものはできても、どれだけ酢を加熱しても酸っぱいままのように、菌によって産生した物質が熱分解するとは限りません
    • 化学的な食品添加物は人類の叡智に他ならないので、正しく安全に、ありがたく利用させていただきましょう
    • “天然”や”自然”が健康に良いわけではありません。山に生えている植物が全て山菜として食べられる訳ではないように、ほとんどの農作物は長い農耕の歴史の中でじっくりと遺伝子を操作し、安全に食べられるように改良していったものです

終わりに

もしこの記事で漬物づくりに興味が出てきた方は、オライリージャパン(ソフトウェアエンジニアに馴染み深い、あのO’Reilyです)が出している、
を、是非読んでみてください。
サワーピクルスの作り方だけではなく、世界のいろいろな発酵食品とそのレシピが文化的な背景まで含めて、さまざまに記述されています。
食の好奇心も知的好奇心も両方とも満たしてくれる、とっても良い本です。
それではみなさん、健康と食の安全に気をつけながら、良い夏をお過ごしください。